IPO 上場審査

上場準備中にM&Aをしたら上場できないのか?審査目線で解説します

上場準備を開始したらM&Aをしてはいけないと聞いたけど本当なの?今回はそんな疑問にお答えしていきます。

この記事を書いている人

筆者は、派遣のアルバイト、タクシー運転手、タクシー会社の運行管理者(内勤業務)、経理、法務等の業務経験を積んだ後、経理BPOや、内部統制コンサルティングで独立し、その後IPOチャレンジ企業にCFOとして入社し、3回の延期を経て30代前半のときに、高卒CFOとしてIPOを達成した経験を持っています。
証券会社の仮審査対応、本審査対応から東証審査まですべてをプロジェクト責任者兼プレーヤーとして対応しクリアしてきた実績があります。
また、上場準備中に複数社のM&Aをプロジェクト責任者として実施した経験もあります。

 

この記事の内容

  1. 上場準備中でもM&Aをすることは可能
  2. M&Aの一般的なプロセス
  3. M&Aをするときの注意点
  4. M&Aを実施後に子会社に求められる内部管理体制

 

上場準備中でもM&Aをすることは可能

結論から言うと、上場準備中であっても適切なプロセスを経て、適切な意思決定を行っており、M&Aの実施後に買収した会社の業績が順調に推移しているのであれば審査上論点になることはありません。
では適切なプロセスや適切な意思決定とは具体的にどういうことなのかについて解説していきます。

 

M&Aの一般的なプロセス

一般的には大まかにいってM&Aのプロセスは4段階に分かれます。

  1. 準備フェーズ:目標設定、中期経営計画の策定、事前準備、委託業者選定、M&Aの対象会社の選定
  2. 交渉フェーズ:条件交渉、デューデリジェンス、契約締結
  3. クロージング:契約内容の履行(譲渡対価の払込等)
  4. 経営統合:PMI(Post Merger Integration)の実施

準備フェーズ:目標設定、中期経営計画の策定、事前準備、委託業者選定、M&Aの対象会社の選定

何のためにM&Aを行うのか目的を明確化します。通常IPOを目指すような会社であれば中期経営計画を策定していることが多く、成長のプロセスで新規の事業の立ち上げや、拡大がありますが、sの手段としてM&Aを戦略の1つとして採用するケースが多いです。
目的を明確化することによってM&Aにおける交渉すべき相手の選定がしやすくなったり、条件交渉における重要な論点が明確化されます。

M&A仲介会社はかなりの数が存在しており、それぞれが得意とするM&Aの規模や業種が異なります。ほとんどの会社で行っている無料相談を活用し、あなたの会社が求めるニーズにマッチするかどうか納得できる専門家を選定しましょう。

交渉フェーズ:企業価値算定、条件交渉、デューデリジェンス、契約締結

交渉フェーズにおいては、秘密保持契約(NDA)を締結後、売り手から買い手に対して企業価値算定に必要な資料が提供されます。主に以下のような資料が一般的に必要となります。この他にもデューデリジェンスを進めていく中で個別具体的な内容に対して追加で資料が必要になるケースがあります。

  • 登記簿謄本
  • 決算書3年分
  • 事業計画(3か年)
  • 直近までの試算表
  • 総勘定元帳
  • 主要得意先一覧(上位10社)
  • 主要仕入先一覧(上位10社)
  • ビジネスモデル分析説明資料

買い手は売り手から受領した資料を元に、事業計画の達成可能性の高さの検討、財務諸表に不良資産が含まれていないか等を確認し、売り手が提示している希望価格に対していくらなら提示できるかを検討します。

クロージング:契約内容の履行(譲渡対価の払込等)

デューデリジェンスの結果を経て、基本合意書の締結、トップ面談等が行われすべて問題なく進んだ場合はクロージング(契約成立となり最終合意契約書の締結)となります。

経営統合:PMI(Post Merger Integration)の実施

PMIは一言で言えば経営統合作業です。かなりボリュームがある内容となるため、別の機会に記事にしたいと思いますので、今回は簡単にまとめます。

PMIで主に行われることとしては以下の内容です。

経営統合

経営の意思決定機関の構築や、マネジメント方針の明確化が必要となります。筆者の経験論としてはなるべくプロパーの役員を活かしつつも親会社の管理部門等から役員派遣を行い取締役会に対して牽制を利かせるとうまくいく傾向にあると思っています。

業務統合

基幹システムを統合するしない、しない場合は内部統制をどのように担保するのか等の業務オペレーションの改善・見直し等が必要となります。
筆者の経験論としては、対象会社の業務オペレーションを無理に変えるよりは、これまでのオペレーションを活かしつつ上場基準がに耐えられる内部統制や、監査対応できる体制構築をしていくほうがうまくいく傾向にあると思っています。

意識統合

M&Aは全然別の企業がある日突然同じ企業グループに属することとなります。当然細かいところで文化や風土が異なります。大きな文化から細かい文化までありますが、飲み会に対する考え方や、会社そのものの理念等に対する考え方まで色々出てきますが、優先順位を決めて対応していきましょう。

 

M&Aをするときの注意点

上場準備中にM&Aを行う場合に気をつけるべきポイントとしては以下のような点に気をつけるべきです。

のれんが発生する場合は事業計画の妥当性・達成可能性を十分に検討すること

M&Aが成功だったかどうかというのは、M&Aを実施した直後にはわかりません。実際にM&Aを実施し、その後事業計画どおりに事業が進捗すれば問題ありませんが、進捗しない場合はのれんの減損等を検討する必要があり、仮に上場準備中に減損の論点が出てくるとなると、意思決定に瑕疵はなかったのか?という論点に波及し一発審査ストップになる可能性もありえますので、慎重な意思決定が必要となります。

上場基準での会計資料が期日までに適時提出できる管理体制が構築されていること

事業計画は順調に推移していても、管理体制が十分に構築されていない会社の場合は注意が必要です。上場企業は決算日から45日以内に決算短信の開示が義務付けられており、その開示対象には連結子会社も含まれます。従って子会社だからといって非上場企業と同じようにゆっくり決算をするということはできず、上場企業と同等程度の速度感で決算を締めることが求められます。

 

M&Aを実施後に子会社に求められる内部管理体制

M&Aの実施後、子会社にも内部統制システムの構築が求められます。具体例には、稟議規程・システムの導入や、取締役会等の機関設計の見直しです。子会社とはいえ、非上場企業から上場企業のグループ会社になるわけですから透明性の高い経営体制が求められます。
経費の私的流用等は当然許されませんから、予防的な統制と、発見的な統制の両面からの内部統制の構築が求められます。

 

まとめ

今回は上場準備中にM&Aをしたら上場できないのか?という疑問に対して審査目線で解説しました。
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