これから上場を目指している企業であれば、上場審査基準について調べたことがあるかもしれません。その中で未払賃金があると上場審査にどのような影響があるのか?自分の会社は未払賃金が無いかを調べる方法はあるのか?という疑問に対してお答えしていきます。
この記事を書いている人
筆者は、派遣のアルバイト、タクシー運転手、タクシー会社の運行管理者(内勤業務)、経理、法務等の業務経験を積んだ後、経理BPOや、内部統制コンサルティングで独立し、その後IPOチャレンジ企業にCFOとして入社し、3回の延期を経て30代前半のときに、高卒CFOとしてIPOを達成した経験を持っています。
証券会社の仮審査対応、本審査対応から東証審査まですべてをプロジェクト責任者兼プレーヤーとして対応しクリアしてきた実績があります。
この記事の内容
- 未払賃金があったら基本的に上場審査はストップします
- 上場準備を始める段階で労務デューデリジェンスを受けることをオススメします
- 見落としがちなインセンティブに対する残業代
- 退職した従業員から未払賃金が無い旨の誓約書を取得したほうが安心
未払賃金があったら基本的に上場審査はストップします
前提として、上場企業になるということは、投資家保護の観点等から、高いコンプライアンス意識と管理体制が求められます。あなたが仮に上場企業の株式の値上がりを期待して、株を購入した後に、未払賃金の問題が発生して、大きな損失を計上することとなれば株価にも大きな影響を与えることになります。
上場企業になるということは、プライベートカンパニーからパブリックカンパニーになるということで社会的な責任が伴うことになります。
したがって未払賃金があった場合は十中八九上場審査はストップすると思っていたほうが良いです。特に2015年に発生した電通の労災事件以来、上場審査における労務管理に関する審査は厳しい管理体制と水準を求められます。
上場準備を始める段階で労務デューデリジェンスを受けることをオススメします
従業員が多い会社であれば特にオススメすることが、専門の社労士事務所や、労務コンサルティングに特化した企業による労務デューデリジェンスを受けることです。
労務デューデリジェンスでは、以下のような内容を調査します。
雇用契約や労働条件の確認
対象企業の雇用契約や労働条件について調査を行います。例えば、事業場毎、従業員毎の雇用形態、労働時間、休暇、給与・賞与、退職金、福利厚生などが含まれます。
労働法規の遵守状況の確認
対象企業が労働法規を遵守しているかどうかを調査します。例えば、労働基準法、雇用対策法、労働者派遣法、育児介護休業法などが含まれます。
労働時間の管理方法の確認
対象企業において、どのように出退勤を管理しているのか、例えばタイムカードを使っているのか、勤怠管理システムを使っているのか等を確認します。また、労働時間ではない時間に実質的に業務であると評価できる慣習が無いかも調査します。
例えば、出社前に掃除をすることや、昼休みに電話番をしないといけない、始業10分前に朝礼があるというような慣習がある場合はこれらは労働と評価される可能性が高いです。
従業員の意見や不満の調査
対象企業の従業員に対して、意見や不満をヒアリングする調査を行います。従業員の不満や問題点を把握することで、会社側からのヒアリング内容と実際の現場のヒアリング内容に差が無いかを調査します。
その他の労務関連調査
例えば、社会保険や労働保険、年金制度の確認や、組織人事、人材育成、安全衛生、ストレスチェック制度の導入状況などについて調査することもあります。
固定残業代の超過が無いかを確認する
企業によっては固定残業代を導入している企業もあります。固定残業代は一定の時間外労働に対する割増賃金を、時間外労働の有り無しに関係なく一律で支給するものです。しかし、固定残業代に含まれる時間外労働を超過した部分は、別途割増賃金を支払う必要がありますので、時間外労働が少なければ労務管理の簡略化につながりますが、恒常的に残業が発生しているような会社の場合は労務管理の簡略化という恩恵を受けられるケースは少ないでしょう。
見落としがちなインセンティブ(歩合給)に対する残業代
最近の企業ではインセンティブ(歩合給)を導入している企業も増えてきていると思います。
実は、インセンティブ(歩合給)に対しても残業代は発生します。
具体的なインセンティブ(歩合給)に対する残業代(割増賃金)の計算方法は下記のとおりです。
- 時間給÷総労働時間=1時間あたりの歩合給
- 1時間あたりの歩合給×0.25以上※=1時間あたりの歩合給の割増賃金
- 1時間あたりの歩合給の割増賃金×残業時間数=歩合給の残業代の金額
もしあなたの会社でインセンティブ(歩合給)を導入している場合は、今一度上記の計算がきちんとなされているかを確認しましょう。
退職した従業員から未払賃金が無い旨の誓約書を取得したほうが安心
上場を目指し始めるといろいろな人が情報を嗅ぎつけて悪用しようとします。例えば、未払賃金があるとして脅しをかけてきたり、幹部従業員に対してハニートラップを仕掛けてきたりというような嘘のような本当のことがあります。
特に未払賃金については、すでに退職している従業員からも訴えられる可能性があるため、退職した従業員からも未払賃金が無い旨の誓約書を取得することを強くオススメします。
2020年4月から賃金消滅時効は2年→5年に延長(当面は3年)していますので、上場準備開始から遡って3年以内に退職した従業員から誓約書を取得するようにしましょう。
実際の誓約書の文案
以下は未払賃金に関する誓約書の文案例です。実際には顧問弁護士と顧問社労士にも文言を確認してから取得するようにしましょう。
〇〇株式会社 御中
賃金太郎
未払賃金に関する誓約書
私、〇〇(氏名)は、以下の事項を誓約いたします。
当社において、業務上発生した労務に対する報酬(以下、「賃金」といいます)について、未払いの状況は一切存在しません。
以上の誓約に基づき、私は、貴社に対して未払賃金が存在しないことを確約いたします。
(年月日)
〇〇(氏名)
なお、現在在職している従業員においても、時点を特定してい未払賃金が無い旨の誓約書を取得することをオススメします。
また、退職する際には退職時誓約書という形式にして、他の秘密保持に関する内容等も包括的に含めた誓約書にすることをおすすめします。
まとめ
いかがでしたか?今回は未払賃金があったら上場審査は通らないのか、という疑問に対する答えと、審査の基準と実務で対応すべきことについて解説しました。
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