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信託型ストックオプションが最大55%の給与課税になることに!?

信託型ストックオプションという種類のストックオプションの税務上の処理に関して、国税庁がこれまでの一般的な理解である、行使した際には課税される譲渡所得が出たときに分離課税(20.42%)されるのではなく、行使した時点で給与所得として課税されるとの見解を示したことが大きな波紋を広げています。給与所得になると税率は所得税・住民税合わせて最大55%となるため、信託型ストックオプションの割当を受けた対象者の税負担は大幅に重くなります。
今回は信託型ストックオプションについて解説していきたいと思います。

この記事を書いている人

筆者は、派遣のアルバイト、タクシー運転手、タクシー会社の運行管理者(内勤業務)、経理、法務等の業務経験を積んだ後、経理BPOや、内部統制コンサルティングで独立し、その後IPOチャレンジ企業にCFOとして入社し、3回の延期を経て30代前半のときに、高卒CFOとしてIPOを達成した経験を持っています。
証券会社の仮審査対応、本審査対応から東証審査まですべてをプロジェクト責任者兼プレーヤーとして対応しクリアしてきた実績があります。

 

この記事の内容

  1. そもそも信託型ストックオプションとは何なのか
  2. 信託型ストックオプションがこれまで分離課税されると理解されていた根拠
  3. 今回新たに国税庁が明示した税制適格ストックオプションについてルールの変更案
  4. 国税庁の見解が変わることにより実務上の発生すると思われる問題点

そもそも信託型ストックオプションとは何なのか

信託型ストックオプションとは、創業者等の委託者から財産の信託(資金の拠出)を受けた「受益者が未確定の信託」(法人課税信託)の受託者が、信託された資金を元手に、発行会社の新株予約権をその時の公正価値(時価)で取得した上で、事後的に発行会社の指定により受益者となった従業員等に新株予約権を交付するスキームのことを言います。

通常のストックオプションは、発行する時点で交付対象者や交付数を決定する必要がありますが、信託型ストックオプションは、発行後に決定することができるため、実際の会社への貢献度に応じて新株予約権を交付することや、発行後にあとから入社してくる人材にも同じ条件の新株予約権を交付することができるというメリットがあるとされています。

信託型ストックオプションの課税関係の取扱いについて、これまでは税制適格ストックオプションと同じように、新株予約権を行使した時に課税されるのではなく、新株予約権の行使により取得した株式を譲渡した時に株式の譲渡所得として分離課税されるという理解が一般的でしたので、税務上のメリットもあるといわれていました。

 

信託型ストックオプションがこれまで分離課税されると理解されていた根拠

所得税法67条の3によれば以下のとおり規定されています。

ストックオプションが交付されたときの取扱い

第九款 信託に係る所得の金額の計算
第六十七条の三 居住者が法人課税信託(法人税法第二条第二十九号の二ロ(定義)に掲げる信託に限る。)の第十三条第一項(信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)に規定する受益者(同条第二項の規定により同条第一項に規定する受益者とみなされる者を含むものとし、清算中における受益者を除く。)となつたことにより当該法人課税信託が同号ロに掲げる信託に該当しないこととなつた場合(同号イ又はハに掲げる信託に該当する場合を除く。)には、その受託法人(第六条の三(受託法人等に関するこの法律の適用)に規定する受託法人をいう。)からその信託財産に属する資産及び負債をその該当しないこととなつた時の直前の帳簿価額を基礎として政令で定める金額により引継ぎを受けたものとして、当該居住者の各年分の各種所得の金額を計算するものとする。

2 前項の居住者が同項の規定により資産及び負債の引継ぎを受けたものとされた場合におけるその引継ぎにより生じた収益の額は、当該居住者のその引継ぎを受けた日の属する年分の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない。

上記の規定により、受託者が受益者となった役職員等に対して新株予約権を交付した時には課税されないとされています。

 

ストックオプションが行使されたときの取扱い

所得税法施行令84条3項2号には以下のとおり規定されています。

3 発行法人から次の各号に掲げる権利で当該権利の譲渡についての制限その他特別の条件が付されているものを与えられた場合(株主等として与えられた場合(当該発行法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合に限る。)を除く。)における当該権利に係る法第三十六条第二項の価額は、当該権利の行使により取得した株式のその行使の日(第三号に掲げる権利にあつては、当該権利に基づく払込み又は給付の期日(払込み又は給付の期間の定めがある場合には、当該払込み又は給付をした日))における価額から次の各号に掲げる権利の区分に応じ当該各号に定める金額を控除した金額による。
一 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成十七年法律第八十七号)第六十四条(商法の一部改正)の規定による改正前の商法(明治三十二年法律第四十八号)第二百八十条ノ二十一第一項(新株予約権の有利発行の決議)の決議に基づき発行された同項に規定する新株予約権 当該新株予約権の行使に係る当該新株予約権の取得価額にその行使に際し払い込むべき額を加算した金額
二 会社法第二百三十八条第二項(募集事項の決定)の決議(同法第二百三十九条第一項(募集事項の決定の委任)の決議による委任に基づく同項に規定する募集事項の決定及び同法第二百四十条第一項(公開会社における募集事項の決定の特則)の規定による取締役会の決議を含む。)に基づき発行された新株予約権(当該新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件若しくは金額であることとされるもの又は役務の提供その他の行為による対価の全部若しくは一部であることとされるものに限る。) 当該新株予約権の行使に係る当該新株予約権の取得価額にその行使に際し払い込むべき額を加算した金額
三 株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額である場合における当該株式を取得する権利(前二号に掲げるものを除く。) 当該権利の行使に係る当該権利の取得価額にその行使に際し払い込むべき額を加算した金額

「発行法人から与えられた新株予約権」のうち、「当該新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件若しくは金額であることとされるもの又は役務の提供その他の行為による対価の全部若しくは一部であることとされるもの」を行使した場合には、その行使をした時に課税することとされていますが、法人課税信託の受託者がその時の公正価値(時価)で取得した上で、従業員等に交付する信託型ストックオプションの新株予約権は、「発行法人から与えられた」ものにも「当該新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件若しくは金額であることとされるもの又は役務の提供その他の行為による対価の全部若しくは一部であることとされるもの」にも該当しないため、従業員等が新株予約権を行使した時にも課税されないとされています。

 

今回新たに国税庁が明示した税制適格ストックオプションについてルールの変更案

今回、国税庁は同時に「スタートアップ支援は重要な施策だ」として、税制適格ストックオプションについて、株価算定に関する新しいルール案を示しました。具体的には「純資産価額方式」と呼ばれる、純資産から優先株式の優先分配部分を引いた額を基準に株価を算出してもルール違反ではないとするなど、従来の手法よりも低く価格の設定できること見通しとなりました。

 

国税庁の見解が変わることにより実務上の発生すると思われる問題点

国税庁は、2023年の4月以降にストックオプションに関する税制改正に伴う通達の改正を行うタイミングで、信託型ストックオプションの税務上の取扱いについての見解を公表することを検討しているとのことです。
既に既存の事業会社において発行されている信託型ストックオプションも対象となるのかどうか、過去に行使された新株予約権についても遡及して行使時に課税されたこととするのか、といった点について現時点で未確定の事項があるため、国税庁の見解の公表を待つ必要があります。
仮に過去に遡及するというような見解が公表された場合には、過去にすでに計上済みの株式報酬費用等についても修正が必要になるのか?といった点についても明確にする必要があるため、今回の国税庁の見解の公表は影響範囲がかなり広いです。
続報が出次第本ブログでも記事を書いていきたいと思います。

 

まとめ

今回は信託型ストックオプションが出した国税庁の課税関係の解釈の変更について解説しました。
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