前回の記事では、関連当事者取引があると上場審査にどのような影響があるのか、その対応の注意点について解説しました。
今回は関連当事者取引の中でも、中小企業であればほとんどの会社が融資条件として付されている「代表者による連帯保証」が上場審査にどのような影響を及ぼすのかと、上場審査における注意点を解説していきます。
この記事を書いている人
筆者は、派遣のアルバイト、タクシー運転手、タクシー会社の運行管理者(内勤業務)、経理、法務等の業務経験を積んだ後、経理BPOや、内部統制コンサルティングで独立し、その後IPOチャレンジ企業にCFOとして入社し、3回の延期を経て30代前半のときに、高卒CFOとしてIPOを達成した経験を持っています。
証券会社の仮審査対応、本審査対応から東証審査まですべてをプロジェクト責任者兼プレーヤーとして対応しクリアしてきた実績があります。
この記事の内容
- 代表者による連帯保証とは何か
- 代表者の連帯保証があっても上場はできる
- 代表者の連帯保証はそもそも何が問題なのか
- 証券会社から代表者による債務保証の解消の打診はされる
- まずは銀行や大家さんに連帯保証の解消を打診してみる
- 連帯保証の解消を打診したけど拒否回答だった場合の対応
代表者による連帯保証とは何か
代表者による連帯保証(債務保証)とは、企業の代表者(例えば、社長や代表取締役)が、自らの資産や信用を担保に、その企業や団体が借入金や債務の返済に失敗した場合に、代わりに返済を行うことを約束する保証です。
一般的には、銀行や金融機関からの融資や借入金に対して、企業や団体が返済能力を持っていることを示すために、代表者が保証人となることがあります。これは、特に新設企業や信用履歴が不十分な企業に対して、融資先がリスクを低減するために求められることが一般的です。
ただし、代表者による債務保証は、代表者に対して大きな負担を与えることがあります。万が一、企業が借入金の返済に失敗した場合、代表者の個人資産が差し押さえられるリスクがあります。
代表者の連帯保証があっても上場はできる
結論としては、代表者による連帯保証があっても上場することは可能です。銀行借入については、金融機関によっては会社の財務状況を総合的に勘案して上場前に連帯保証を解消してくれることもあります。
一方で賃貸借契約に基づく連帯保証については、賃貸人の意向が強く反映される傾向があり、代表者による連帯保証を解消してくれないケースも見られます。
実際に上場している会社の有価証券報告書を見てみると、関連当事者取引注記に、代表者による被債務保証が記載されているケースも多くあります。
代表者の連帯保証はそもそも何が問題なのか
代表者による連帯保証が上場審査において問題視される理由はいくつかあります。
関連当事者取引の解消
そもそも代表者による連帯保証(被債務保証)は、会社と代表者個人の間の関連当事者取引になります。関連当事者取引は
「関連当事者取引があったら上場できないのか?審査における対応の注意点を教えます」の記事でも解説したとおり、一般市場取引と比較して公平性の担保や利益相反の観点から、原則として避けるべき取引とされています。
企業の信用に対する疑義
代表者による連帯保証(被債務保証)がなければ融資を受けられない、あるいは事務所を賃貸できないという印象を与える可能性はあります。ただしこれは取引内容や、業績の状況、財務状況を総合的に勘案し東証の審査を通過することもできます。
起業家や経営者のリスク回避
代表者の連帯保証が求められることで、経営者がリスクを回避する傾向があります。これにより、新規事業の創出や企業の成長が阻害されることがあります。
証券会社から代表者による債務保証の解消の打診はされる
証券会社の公開引受部門としては、少しでも上場できる可能性を上げるために代表者による連帯保証の解消は最後の最後まで解消するように打診してくることが考えられます。
会社としては無碍に断るのではなく、それを口実に金融機関や賃貸人に対して連帯保証の解消の交渉をしてみましょう。
まずは銀行や大家さんに連帯保証の解消を打診してみる
交渉の相手方が銀行等の金融機関の場合は、上場を目指す過程で審査の項目で関連当事者取引の解消があるということを伝えることで解消してくれるケースが多いです。金融機関は情報管理体制も厳格であり、これまでにも多くの連帯保証の解消の実績があるため、交渉してみるとよほど業績や財務状況が悪くない限りは解消することに応じてくれるはずです。
そもそも銀行が連帯保証を解消してくれないということは財務状況に問題がある可能性があり、上場審査にも影響を及ぼす可能性があります。
連帯保証の解消を打診したけど拒否回答だった場合の対応
銀行ではあまりないかもしれませんが、不動産の賃貸人だと連帯保証の解消に対して拒否の回答をしてくるケースもあります。このとき重要なことは上場を理由に高圧的な態度を取るということはせずに、真摯に相手の回答を受け入れ理由を聞くことです。
そしてその理由を証券会社の公開引受部門に伝え、審査部門や東証に対してどのような回答をしていくかを一緒に考えることが求められます。
まとめ
いかがでしたか?今回は代表者の連帯保証があったら上場審査で問題になるのかどうか、上場審査における対応の注意点について解説しました。
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