これから上場準備を開始しようと思うけど、役員の中に社長の配偶者がいる。このままで上場できるのだろうか?今回はそんな疑問にお答えしていきます。
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筆者は、派遣のアルバイト、タクシー運転手、タクシー会社の運行管理者(内勤業務)、経理、法務等の業務経験を積んだ後、経理BPOや、内部統制コンサルティングで独立し、その後IPOチャレンジ企業にCFOとして入社し、3回の延期を経て30代前半のときに、高卒CFOとしてIPOを達成した経験を持っています。
証券会社の仮審査対応、本審査対応から東証審査まですべてをプロジェクト責任者兼プレーヤーとして対応しクリアしてきた実績があります。
この記事の内容
- 社長の配偶者が社内にいても上場はできるがハードルはあがる
- 役員に社長の弟がいて上場した会社もある
- 社長の配偶者や役員の近親者が社内にいる場合に留意すべき事項
- 中には上場を目指す過程で社長の配偶者や役員の近親者に退任してもらうケースもある
- 【実例有り】社長の配偶者や役員の近親者が社内にいる場合に審査で具体的にヒアリングされる内容
社長の配偶者が社内にいても上場はできるがハードルはあがる
東証が定める上場審査等のガイドラインによれば、企業経営の健全性について以下のように規定されています。
(企業経営の健全性)
3.規程第213条第1項第2号に定める事項についての上場審査は、次の(1)から(3)までに掲げる観点その他の観点から検討することにより行う。
(1) 新規上場申請者の企業グループが、次のa及びbに掲げる事項その他の事項から、その関連当事者その他の特定の者との間で、取引行為その他の経営活動を通じて不当に利益を供与又は享受していないと認められること。
a 新規上場申請者の企業グループとその関連当事者その他の特定の者との間に取引が発生している場合において、当該取引が取引を継続する合理性及び取引価格を含めた取引条件の妥当性を有すること。
b 新規上場申請者の企業グループの関連当事者その他の特定の者が自己の利益を優先することにより、新規上場申請者の企業グループの利益が不当に損なわれる状況にないこと。
(2) 新規上場申請者の役員の相互の親族関係、その構成、勤務実態又は他の会社等の役職員等との兼職の状況が、当該新規上場申請者の役員としての公正、忠実かつ十分な職務の執行又は有効な監査の実施を損なう状況でないと認められること。この場合において、新規上場申請者の取締役、会計参与又は執行役その他これらに準ずるものの配偶者並びに二親等内の血族及び姻族が監査役、監査等委員又は監査委員その他これらに準ずるものに就任しているときは、有効な監査の実施を損なう状況にあるとみなすものとする。
つまり、社長の配偶者が役員に就任しているというだけで有効な監査の実施ができないとみなされる前提で審査が進められるということです。
役員に社長の弟が就任した状態で上場した会社もある
一方で、実際に上場している会社でも筆者が調べたところ役員に社長の近親者が就任している状態で上場した会社も存在しています。
株式会社GA technologies[ジーエー テクノロジーズ]という、「中古不動産流通プラットフォーム『リノシー』の開発・運営、プラットフォームを通じた中古不動産の売買仲介およびリノベーションの企画・設計・施行」を行っている会社があります。2018年に東証マザーズ(現 東証グロース)に上場した企業で、役員の樋口大氏は社長の樋口龍氏の実弟とのことです。
社長の配偶者や役員の近親者が社内にいる場合に留意すべき事項
社長の配偶者や役員の近親者が社内にいる場合は以下の点に留意しましょう。
配属部署
社長の配偶者や役員の近親者が社内にいても上場できはしますが、審査上絶対に避けるべきポジションがあります。
監査役、内部監査等独立性求められる部門
監査役は取締役の業務の執行状況、法令の遵守状況を監視・監督・監査することが職務であり高い独立性が求められます。内部監査室も、原則として代表取締役の直轄組織として全社の内部統制システムが有効に機能しているかを監査・評価する立場にあるため高い独立性が求められます。
このようなポジションに社長の配偶者や役員の近親者が就任している場合、現実的には独立性を持って業務執行することは困難となりますので避けるべきです。
経理・財務等会社の金銭に関わる部門
経理部門は会社の業績を会計システムに記帳する部門であり、財務部門では会社の金銭の出納業務を行います。過去の歴史を振り返ると粉飾決算が行われる際にはほぼ間違いなく経理・財務部門が関与しています。会社の開示書類を作成する重要な基礎となる会計データ・銀行データに関与する部門に社長の配偶者や役員の近親者が従事することは避けるべきです。
評価制度・人事考課
社長の配偶者や役員の近親者というだけで、課題に評価したり、本来マイナス査定をしなければならないところを甘く査定してしまったりするケースもあり得ます。このようないわゆる「お気に入り人事」が行われている場合は内部統制システムの有効性に欠陥があると言えます。また、他の従業員の士気の低下にも繋がりますので上場を目指す企業であればこのような評価制度・人事考課は改めるべきです。
中には上場を目指す過程で社長の配偶者や役員の近親者に退任してもらうケースもある
前述の留意すべき事項が実施できない場合は、社長の配偶者や役員の近親者には役員を退任してもらったり、会社を退社してもらったりするケースもあります。会社を本当に上場させたいと思うのであればこれくらいの覚悟が社長には求められるのです。これが上場しプライベートカンパニーからパブリックカンパニーになるということです。
【実例有り】社長の配偶者や役員の近親者が社内にいる場合に審査で具体的にヒアリングされる内容
社長の配偶者や役員の近親者について以下の内容が審査時にヒアリングをされます。要するに審査部門としては社長の配偶者や役員の近親者だからといって特別に優遇された待遇になっていることが無いか等を審査しています。
- 入社の経緯
- 入社してからの配属履歴を月次で提出
- 配属先での業務の従事状況
- 入社してから現在までの日次の出勤状況
これらの資料を提出した上で、更に特別待遇がされていないことを証明する必要があります。更に監査役面談や社外取締役面談においても社長の配偶者や役員の近親者の稼働状況についてはヒアリングされる可能性が高いですが、実際に特別待遇なく業務に従事していることが証明できれば審査に通過することは可能です。
まとめ
今回は上場準備を始めたら役員に社長の配偶者がいる場合は上場できないのか?という疑問に対して審査目線で解説しました。
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