この記事を書いている人
筆者は、派遣のアルバイト、タクシー運転手、タクシー会社の運行管理者(内勤業務)、経理、法務等の業務経験を積んだ後、経理BPOや、内部統制コンサルティングで独立し、その後IPOチャレンジ企業にCFOとして入社し、3回の延期を経て30代前半のときに、高卒CFOとしてIPOを達成した経験を持っています。
余談ですが、一応IPO実務検定試験(上級レベル)にも試験合格しており、形式的な知識も持ち合わせた上で、実際約に立つのかどうか等も含めて、経験談も含めて書いていきたいと思います。
ちなみに、日本IPO実務検定協会のHPによれば、
上級レベルは以下のように定義されています。
上級レベル試験:上場準備室長として、上場準備に必要な業務の特定ができるほか、それらの業務を社内の各部門や担当者にアサインしたり、監査法人、証券会社などの上場関連プレイヤーとの折衝ができる。
この記事はこんな人にオススメ
例えば今は事業会社で経理部門の責任者をやっているけど、1つの経験としてIPOにチャレンジしてみたい!
監査法人で会計士としてIPOに関与しているけど、今度はプレーヤー側にチャレンジしてみたい!
まだまだ経理としては駆け出しだけどいつかはIPOにチャレンジしてみたい!
私の周りにはこのような思いを持っていらっしゃる方が結構多くて、度々相談を受けることがあるため、そのときにお話している内容をまとめてみました。
1.本当にそこまでやる必要ある?ということを求められる
上場審査を進めていきますと、最初にやるのがショートレビュー(短期調査)というものを、監査法人と証券会社からそれぞれ受けます。
会社の概要から、ビジネスモデル、内部統制の状況等を300問くらいの〇×クイズみたいなもので答えます。
その中で、絶対に最初に問題になってくるのが「内部統制システム」の問題です。
ワンマン経営から組織的な経営へのシフト
上場会社になると、社長がなんでもかんでもワンマンで決裁するような属人的な経営から脱却し、権限を移譲して組織的に経営することが求められます。
その中で、職務権限表というものを作成して、誰が何を決裁できるのかを一覧化します。
権限を決めたら、具体的なオペレーションを組み立てていきそれをマニュアルに落とし込む等の作業をするのですが、そこで必ず言われることが
「担当者が作成したものを、ダブルチェック等して間違いや不正が起こらないようなチェック体制を構築してください。」と教科書に書いてあることをそのまま言われます。
これってやった方が良いのかな?ということが出てくる
言っている意味はわかりますし、おそらく正しいと思います。
しかし、実際に上場準備をし始めると
「あれ、これはどうなんだろう」ということが必ず出てきます。
そうすると、証券会社の公開引受部門の担当者に相談すると思うのですが、
この相談するというところに実は「罠」が潜んでいます。
証券会社の担当者はサラリーマンである
証券会社の担当者の気持ちになってみると
相談された内容に対しては
必ず保守的な回答をしてきます。
ダブルチェックした方が良いですか?と聞かれたら
「した方が良いかと思いますが、最終的な判断は会社におまかせします。」
というような言い方をしてきます。
想像してみればわかるのですが、
「それはやらないでも大丈夫ですよ。」と言ってしまって、
審査が進んであとから問題になったら証券会社の責任になってしまいます。
なので、絶対に
「できるならやった方が良い」
「最終的には会社の判断」
というこの2つの言葉を使ってきます。
そうすると、会社側としてはやらないといけないチェック作業が鬼のように増えてしまい、
IPO準備あるあるのなんでも二重チェック問題になってしまいます。
相談するときは相手に逃げ道を作ってあげる
なんでも二重チェック状態を防ぐにはどうしたら良いのか。
証券会社の担当者への相談の仕方をフォーマット化することです。
具体的には、下記の2つが重要です
- 相談するときは3パターンくらい案を持っていく
- 可能性を聞く
ある事案に対して、「こういう3パターンを考えているのですが、どれが良さそうですか?」という選択肢を与えるような相談の仕方をするということが1つと、
「この論点はIPOの審査で論点になる可能性って大体どんなもんですかね?大中小で言ったら。
会社で判断するのに基準として聞きたいです。」
というような聞き方です。
上場審査には時代の流れを意識した「トレンド」というものが必ずあります。
大手広告代理店の従業員の過重労働が問題になったときは
過重労働をどのように防ぐかが重要論点となり、
インターネット広告の不正広告が社会問題になったときは、
社内の広告審査体制に関するところが論点になったり、
という具合です。
上場準備を進めていると、審査に通過することが目的となってしまいがちですが、
本当に重要なのは上場したあとに成長を続けていく内部管理体制を作ることが目的なので、
そこを忘れないようにして、なんでも二重チェックをやりすぎないようにしましょう。
2.想定していなかったことは必ず3回は起こる
これは色々な上場会社のプロジェクト責任者との交流会で聞いた話も含めてですが、
どこの会社も漏れなく、必ず、想定外の事態が発生しているそうです。
~だろうと思っていたことほど後で問題になる
一番厄介で、よくあるのが、プロジェクトに関与しているメンバーの誰もが、論点そのものに気づかないパターンです。
例えば、会社内で何かを決裁するプロセスがあるとして、その決裁者をどの役職にするのか?
という論点があったとして、滅多に出て来ないプロセスの場合は稟議の一覧にも出てきづらかったりします。
審査が進んでいく過程で、証券担当者が発見して、
「これってなんで担当者で決裁しているんでしたっけ?金額基準高いのに。」
よくよく深掘りしてみると、中には適切じゃない決裁も混ざっていた、みたいな問題になったりします。
こうしたことを防ぐためには 、職務権限表を作るときには他社からのコピー品ではなく、
必ず自社の体制にあったものを網羅的に作ることが重要です。
何回も確認していたことでも審査でちゃぶ台返しされることはある
一方で先程と逆のようなことですが、証券会社も当社も重要な論点として認識していたけど、天変地異的にちゃぶ台返しされるということも、往々にしてありえます。
実際にあった事例として(※特定を防ぐために多少事実関係を変えています)
退職した従業員から未払残業代が無いことの誓約書をとった方が良いかどうか。
結論、これはとった方が良いのですが、公開引受部門との事前すり合わせでは基本的にそこまでやる必要はなく、可能であれば対応した方が良いがマストではないというような判断になっていた事案がありました。
会社側としては審査に入る段階で不安になったため、念のため再度確認したが、同様の返事であった。ところがいざ証券審査に入ったら、審査部の担当者から「未払い残業代が無いことのエビデンスを過去2年分にわたって提出して欲しい。例として誓約書。」とのリクエストが出てきてしまい、エビデンスが提出できず審査がストップしてまったという会社がありました。
これは証券会社の担当者にも問題がある事例ですが、
会社として不安に思うような事案があれば、複数の専門家の意見を聞くようにする等して会社としても悩むような事案であれば保守的な対応をしておきましょう。
え、そんなことを証券審査では1回も言われてないけど、、、ということが起こる
証券審査をする担当者は人であり、東証審査を行う担当者もまた人であります。
見る人が変わると、論点が新しく出てきたりすることがあります。
公開引受部との事前準備の段階、証券審査の段階においては当たり前のように問題無しという判断をされてきた論点について、東証審査に進んだ段階で「この論点はAの観点では問題ありませんが、Bの観点では問題ないでしょうか?見解をお聞かせください。」みたいなことが発生したりします。
これは、1つの事案に対して複数の論点が絡んでいるときに、大きい方の論点にフォーカスされてしまい、小さい方の論点が十分に検討されないケースが出てきたりします。
こうしたことを防ぐためには、弁護士を2箇所契約する等して、論点に対しては複数の見解を取っておくということを推奨します。
3.審査期間中は本当に会社に泊まり込みが発生する
これは書いていいのかどうか、ちょっと悩みますが、書きますw
私は役員でしたので、労働時間は無限ですので泊まり込みとかは問題にはなりませんでしたw
証券審査、東証審査は3回の質問とヒアリングで行われる
証券会社の審査はまだ期日に余裕があるのですが、東証の審査は質問受領から回答までの期間が基本的に約7日しかありません。営業日ではなく暦日です。
このとき1回に送られてくる質問の量が尋常ではなく、少ない会社でも100問程度、多い会社だと300問近くの質問が送られてきます。
証券会社は必ず事前にチェックをしたがる
回答まで7日しか無いですが、主幹事証券会社は、指導の責任もありますので、会社側の作る回答を必ず事前チェックします。
これには1日~2日程度の時間がかかりますので、逆算すると、質問を受領してから2日くらいで主幹事証券会社に対して回答案を出さないといけません。
1つ1つの質問に対して作文しないといけない
300問あっても、質問の1つ1つが「はい」か「いいえ」で答えられる内容とかであったら良いのですが、全くそんなことはありません。
基本的にすべて回答のセオリーがあり、(詳しくは別で書きます)作文をしないといけないです。
しかもどういうわけか、質問状はバーっとA4のPDFで送付されてくるのですが、回答書はWordデータで1問1答のような解答用紙を別途作る必要があります。
これって本当に必要な作業なの??と思いながらも、審査に合格するためにはやるしかないのです。
証券会社の人はよく「こういった作業量も短期間に対応できる力があるかどうかを見ることも審査の一貫なのです。」とか、もっともらしいことを言うけど、
コンプライアンスを遵守しろという一方で、コンプライアンスを守っていたら到底終わらないような量の質問をぶつけてくるのはどないやねん、と突っ込みたくなります。
4.きれい事だけじゃない本音と建前が必要なときが必ずある
「事実は1つ、解釈は無限」です。
上場審査においては、会社にとって不利な事象が発生すること、または過去に発生してしまっているということがあります。
例えば、事後稟議であったり、労基署等の調査でペナルティを受けるというようなことです。
このとき、必ず(1)なぜ起こったのか (2)再発防止策はどのようなものか (3)周知方法 (4)教育への落とし込み のようなことを回答として求められます。
この回答の仕方を1つで審査が通過したり、落ちたりします。
ここはかなりマニアックなノウハウであり、かつここで具体的な内容を文章にすることは非常に難しいため、興味がある方はぜひお問合せからご連絡ください。直接お話をする形式であれば可能な範囲でお話します。
5.「最後は気合と根性」by監査法人のパートナーw
こんなことを言うと時代錯誤とか、パワハラとか言われるかもしれませんが、本当に最後の最後は「気合と根性」なんです(T_T)
前述したとおり、上場審査の過程では必ず想定していなかったことが起こります。
繰り返しますが、必ず想定していなかったことが起こります。
しかもなぜかそういう事態は「なぜ今?!」というようなタイミングで発生したりします。
そういった事態が発生したときに、期限までに回答できないと時間切れとなってしまい、たまにIPOの承認後に取り消しになる「確認すべき事項が出てきたため、上場申請を取り下げます。」という名目で事実上のゲームオーバーとなります。
まとめ
いかがでしたか?ここに書いてあることは、上場準備で起こるトラブルのほんの一部をご紹介したものです。
こういった緊急事態への対応等も含めてハードワークを経験してみたい方はぜひチャレンジしてみましょう!
IPOは経験できるなら、絶対にやった方が良いと思います。
達成したあとに見える景色は圧倒的に変わります。
最後は運と縁ですがw
あなたの年収が上がりますように!