IPO 上場審査

関連当事者取引があったら上場できないのか?審査における対応の注意点を教えます

これから上場を目指そうと思う会社であれば、関連当事者取引の解消は必須事項となります。今回は関連当事者取引にはどういう取引があるのか、誰が関連当事者取引の対象となるのか、金額によって許容される取引はあるのか等について解説していきます。

この記事を書いている人

筆者は、派遣のアルバイト、タクシー運転手、タクシー会社の運行管理者(内勤業務)、経理、法務等の業務経験を積んだ後、経理BPOや、内部統制コンサルティングで独立し、その後IPOチャレンジ企業にCFOとして入社し、3回の延期を経て30代前半のときに、高卒CFOとしてIPOを達成した経験を持っています。
証券会社の仮審査対応、本審査対応から東証審査まですべてをプロジェクト責任者兼プレーヤーとして対応しクリアしてきた実績があります。

 

この記事の内容

  1. 関連当事者取引はそもそも何が問題なのか
  2. 関連当事者取引の範囲はどこまでが対象なのか
  3. よくある関連当事者取引の事例
  4. 関連当事者取引の具体的な解消方法
  5. 過去の関連当事者取引について審査で聞かれたときの回答方法
  6. 一番重要なのは経営者の上場に対する本気度

 

関連当事者取引はそもそも何が問題なのか

関連当事者取引'かんれんとうじしゃとりひき)とは、会社がその経営に関与する者(経営陣、株主、親会社、子会社、関連会社など)と行う取引のことを指します。これらの取引は、通常の市場取引と比較して利益相反や適正価格での取引が懸念される場合があります。
そのため関連当事者取引は、一般的に利益相反や不公平な取引を避けるため、会社法(厳密には利益相反取引)や会計基準によって一定の規制や、一定金額を超える関連当事者取引の内容の開示が義務付けられています。これにより、投資家や利害関係者が、関連当事者取引の影響を評価し、会社の財務状況やリスクを適切に理解できるようになります。

 

関連当事者取引の範囲はどこまでが対象なのか

関連当事者の主たる範囲は次の通りです。

  1. 親会社
  2. 子会社
  3. 同一の親会社をもつ会社等(いわゆる兄弟会社)
  4. 会社が他の会社の関連会社である場合における「他の会社」ならびにその親会社および子会社
  5. 関連会社および関連会社の子会社
  6. 主要株主(10%以上の議決権を保有している株主)およびその近親者(二親等内の親族)
  7. 役員およびその近親者
  8. 主要株主およびその近親者、役員およびその近親者が議決権の過半数を所有している会社等およびその子会社
  9. 重要な子会社の役員及びその近親者
  10. 6から9に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社
  11. 従業員のための企業年金(企業年金と会社との間で掛金の拠出以外の重要な取引を行う場合に限る。)

ただし、関連当事者の範囲は形式的に判定するのではなく、実質的に判定する必要があります(会計基準第17条)ので、迂回取引等で形式的に関連当事者取引に該当しないようにしていたとしても、実質的には関連当事者取引と判断される可能性はあります。

 

よくある関連当事者取引の事例

親会社と子会社間での取引

親会社と子会社の間で行われる取引として次のようなものがあります。

  • 親会社が子会社に対して資材やサービスを提供する
  • 子会社が親会社に製品やサービスを提供する場合
  • 子会社が親会社の商品の販売代行を行う
  • 親会社から子会社に在籍型出向を行う
  • 親会社から子会社に対して事務所を転貸する

これらの取引は関連当事者取引に該当しますので取引を行う場合は取引金額の設定について、一般市場価格等を考慮して過度に有利不利が発生しないようにしましょう。

役員や株主への融資

会社が役員や主要株主に対して、低金利や無利息で融資を行う場合です。これには、利益相反の懸念があります。特に中小企業の場合、主要株主や役員が親族で構成されているケースも多く、実質的には会社のお金を私的に流用しているとも見られかねません。

役員や株主が所有する不動産の取引

会社が役員や株主が所有する不動産を購入、賃借する場合や、役員や株主に会社が所有する不動産を販売、賃貸する場合です。売買を行う場合に、一般市場価格と比較して過度に高額あるいは低額で取引をした場合は会社法上の利益相反取引に該当する可能性もあるため上場を目指すのであれば、直接の取引は避けるべきでしょう。

役員や株主の親族への取引

会社が役員や株主の親族と直接あるいは、それらの者が経営する企業と取引を行う場合です。このような取引では、利益相反や適正価格での取引が懸念されます。
典型的なものとしては、社長の配偶者が業務は何もしていないけど役員または従業員として報酬を支払うというものがあります。

 

関連当事者取引の具体的な解消方法

役員や株主に対して貸付等がある場合は、役員や株主から返済をしてもらう必要があります。上場を目指すのであれば、少なくとも上場審査に入る前までに解消する必要があります。

関連当事者取引の中でも、一定の合理性があり、取引条件が一般市場取引条件と比較して同等程度であれば認められるケースもあります。例えば、グループ間で経営の効率化のために法人を分けている場合で、グループ間取引を行うことは多くの上場会社で行われていることです。

 

過去の関連当事者取引について審査で聞かれたときの回答方法

上場審査においては、現在は解消されている過去に行っていた関連当事者取引について質問をされることがあります。具体的には、どのような経緯で関連当事者取引を始めるに至ったのか、なぜ解消することになったのか、等です。

以下に回答方法の一例を示します。
「当時は上場基準に対する認識が弱く〇〇の取引を実施していましたが、内部管理体制の強化及び透明性の高い経営体制の構築の過程で取引の内容を見直し、解消することといたしました。」

 

一番重要なのは経営者の上場に対する本気度と意識

最も重要なことは、上場を目指す企業の社長及び役員陣の意識です。本気で上場を目指そうと思うのであれば、これまで中小企業という立場に甘んじて行ってきた自分に有利な取引を解消し、プライベートカンパニーからパブリックカンパニーに変わっていくという強い目的意識を持ち実行することが求められます。

 

まとめ

いかがでしたか?今回は関連当事者取引が上場審査に与える影響と、審査における対応の注意点について解説しました。
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